入院二日目にして、天国から地獄へ
病棟に戻ると、胃痛がまた激しくなり、ベッドにうつ伏せになったまま、トイレとの往復でした。
そこへ、先ほどの頭痛薬を持ってきた看護師さんが、ノックして入ってきました。
「ほうじ茶ラテさん、担当医と連絡が取れて、お預かりしている胃薬を飲んでいいという事でしたので、お持ちしました!」
と、預けていた胃薬のストロカインと、白い粉薬のアルサルミンを持ってきてくれました。アルサルミンは、胃粘膜を保護するお薬です。
うーーん。今、このタイミングで胃粘膜を保護しても、多分吐いちゃうよなぁ…
しかし、医療従事者のしてくれる事を、このタイミングで断るほどの確信が、入院したての私にはまだありません。
気が進まないながらも、アルサルミンを飲む私。こういう時の粉薬って、キツイです。
うう…
程なく、襲いかかる吐き気。
トイレに駆け込み、便器を見ると、ザバーッと全部吐いてしまいました。白い粉薬が、そのまま出てきました。
ナースコール。みぞおちも、胃の裏側(背中)も痛くて、どうにもなりません。駆けつけた看護師さんも、泣きそうになりながら背中をさすってくれますが、どうする事も出来ません。
その後も担当医と連絡を取ってくださり、預けてある薬のうち、ストロカイン(胃痛を吐き気を抑える薬)は何度でも飲んでいいと言われました。が、ちょっとでも胃に何か入るとまた吐きそうなので、飲めそうにありません。
ようやく吐き気が落ち着いてきたのは、夕方遅くなってからでした。
病院の夕食は、18時から。とても、食べられそうにありません。
でも薬を飲まなければいけないので、少しはお腹に入れたほうがいいのかな。
その日の夕食は、焼き魚とお味噌汁。
恐る恐る、お味噌汁をすすります。美味しい…
お魚も、身をほぐして、少しだけ頂きました。
ご飯は、今日はやめておきます。
上向いてきた体調、ただし胃痛の不安は続く…
翌朝、前日の胃痛や吐き気が嘘のように治り、体調が早くもノーマルモードの私。精神状態もノーマルに戻りました。
週明けで戻ってきた担当の先生に、「吐いちゃったんですって?」と聞かれ、「ハイそうなんです…」と答えつつ、どこまで症状の異常な感じ、深刻さを訴えられたか…。多分、この時は、そこまでの深刻さを訴え切れていなかったのではなかったかと思います。
「あの先生、ネキシウム(胃薬)を、シンガポールでは40ミリ飲んでいたんですけど、それが日本では20ミリになって、胃痛がひどく出ちゃったので…。多分ネキシウムが足りないんだと思うんですけど、40ミリに戻してもらうことって出来ますか?」
すると先生はその時、「チームの先生たちに確認してきます」と言ってくれたのですが、次の問診では、
「日本の処方では20ミリがマックスなんです」
と言われ、結局ネキシウムの量を元に戻してもらう事は出来ませんでした。
前日に胃痛が出た時に、
「シンガポールではネキシウムを40ミリ飲んでいて、入院してから今までの半量になったんです」と、看護師さんにも訴えたのですが、看護師さんは、
「あ〜、その量で慣れちゃってるとねぇ…」
と言っていたので、そのうち、体が20ミリに慣れてくるっていう事なのかな…?
その後も、体調は回復しつつも、食後の胃痛に怯える日々が続きます。
そして、この2週間後に小腸に穴が空いている(小腸穿孔)と判明、緊急手術を受けることとなるのです。
つい、イライラ…
もともと早食いの私。反省、猛省です。
運ばれてきた食事を、ゆっくり、ゆっくりと、すり潰すようにして食べます。
…が、それでも早いんだと思います。食欲があると、20回も噛んでいられません。
食事が終わると、食後のお薬…。ですが、それは私だけでなく入院患者さん皆さんそうなので、看護師さんたちも忙しい。
それで、食後一時間以上が経っても、お薬が来ないなんて事はありました。
ただでさえ胃薬が足りないのに、このタイミングでステロイドを飲んだら、また胃痛が出てしまうかも…
そんな不安から、つい、イライラしてしまいます。
お膳を下げに来た看護師さんに、すかさず、
「すみません。お薬、持って来て頂けますか」と声をかけます。
「準備ができたらお持ちしますので、順番にお待ちください」
すぐには来て頂けません。やがて胃痛が、またみぞおち辺りに、鈍く出て来ます。
ナースコール。慌ててお薬を持ってきてくれた看護師さんの表情を見ると、私のイライラは顔に出ていたのだと思います。
余談ですが、病院の売店では、アンガーマネジメントの本や雑誌の特集があると、よく売れているようでした。
やはり、他の入院患者さんも、入院生活の中で不満やイライラを抱えていて、様々な怒りを抑えるのに必死なんだな、と感じました。
見落とされがちな「患者側の視点」
退院後のことです。入院中の話をしたところ、母から「ふーん。看護師さんも大変だねぇ」と言われたことがあります。
正直、カチンときました。なので、つい「だって看護師さんはそれがお仕事でしょう」と、言ってしまいました。
もちろん語るまでもなく、看護師さんは超多忙、体力気力ともに大変なお仕事です。入院中何度「ありがとうございます」と感謝の言葉を口にしたかわかりません。
でも、それ(看護師さんが大変な尊いお仕事)って、改めて私個人のエピソードの中で語るまでもなく、皆んな分かってる事、共通認識ですよね。
あえて言いますが、患者も大変なんですよ。
そして、大変なんだって、周りにあんまり言えないものです。(そりゃ人にもよりますが…)
排泄などのプライバシーを人様にさらさなければならないストレス、生活環境が制約されているストレス…
個人的に、「入院して楽してる」って思われることもかなり辛く、ストレスになりました。
詳しくは後述しますが、入院で全ての環境が変わるというのは、こんなにもストレスがかかる事なのかと、私自身、入院して初めて知った事です。